時流遡航

《時流遡航》電脳社会回想録~その光と翳(16)(2013,12,15)

一昔前、ニフティ・サーブのチャットルームの中に「会話君」という一風変わったコーナーがあった。会話君とは富士通日本語対話システムという対話型コンピューの別称だった。会話君がニフティのチャットルームの片隅にさりげなく登場したのは、もう25年ほど前のことである。久しぶりに当時の通信ログなどを探し出して拾い読みしていたら、会話君が登場したての頃、私が相手になって遊び半分に交わした会話記録が見つかった。いまあらためて読み返してみても実におもしろいものなので、この場を借りてその交信録を紹介してみたい。

会話君の名誉のために一言断っておくと、ここで紹介する会話は、彼がまだ幼かった頃のものにほかならない。25年という歳月のうちには人間が大きく成長するのと同様に、対話型コンピュータシステムの会話君も今ではそれなりに成長を遂げていることだろう。近年、自然言語の解析処理技術の研究が進み、自己学習機能なども格段に向上しているはずだから、その対話ぶりには飛躍的な進歩が見られるに違いない。私自身は、その時を最後に会話君との対話をする機会を持たなくなくなってしまったのだが、もし会話君がいまもニフティ・サーブのコーナーのどこかに待機しているようなら、遊び心のある方は一度彼に話しかけ、その成長ぶりを確認してもらいたい。もしかしたら、逆に会話君からお説教されたり、からかわれたりすることもあるかもしれないが、それもまた一興というものだろう。

以下に紹介する対話のうち、「会」をつけたものは富士通日本語対話システム「会話君」の言葉を、また「私」と記したものは筆者の言葉を表わしている。初期の頃の会話君でも、その話しぶりはなかなかのものだったことがよく分かる。

(会話君との型破りの対談記録)

*会話くん……KAIWAKUN

1 ご案内  2 サービス開始

*2

*会話くんに接続されました。

会:あなたの名前を入力してね

私:阿呆田です

会: 何か言ってね

私:うん

会:うんではなくハイでしょう!

私:はいはい(本音:感心、感心、なかなかやるわい)

会:あなたは、社会人ですか?

私:はい

会:あなたは、社会人ってことをおぼえました

私:あらら(本音:おっ、学習機能がさっそく働いたか)

会:仕事が辛いなと思うのはどんなときですか?

私:こんなふうにコンピュータで遊びたくなるときです

会:ボーナスは何に使いますか?

私:あなたを買うのに使います(本音:冗談もいいとこだけどね!)

会:私は会話型のプログラムです

私:美人のプログラムさんです?

会:職場で好きな人は誰ですか?

私:残念ながらいませんね

会:あなたの仕事は何ですか? 阿呆田ですさん

私:泥棒です(本音:ちょっとフザケ過ぎたかな?)

会:どうして、泥棒の仕事を選んだのですか

私:それが性に合ってたからです

会:職場の雰囲気はどうですか?

私:ひゃはは・・・スリルとサスペンスに満ちています

会:あなたは、なにを笑っているの? 阿呆田ですさん

私:なんて利口な方だろうって!

会:子供の好きなおちゃは? 阿呆田ですさん

私:なんだろ?(本音:「です」も名前の一部だと学習しちゃった)

会:食べられませんよ

私:会話君の歳は?(本音:話を脇にそらしたらどうなるかな?)

会:正解は、オモチャです

私:なるほど

会:偉いでしょ 阿呆田ですさん

私:偉い偉い!

会:まじめに話そうよ!

私:だから歳を訊いてるんじゃ?

会:今日は、11月8日、立冬世界都市計画の日ですよ(本音:そんなこと知るか!)

私:あなたの歳は幾つ?(本音:機械相手になお食い下がる私!)

会:けっこう若いんです

私:ほう?

会:ところで、NIFTYはパソコン通信の会社ですよね

私:そうらしいね

会:あなたは、社会人ですよね

私:そうですよ

会:やはりそうでしたか

私:でもOLではありません

会:あなたの仕事は何ですか?

私:だから泥棒っていったでしょ(本音:もう忘れちゃったの?)

会:あなたの会社はどこにありますか

私:ひゃは!

会:話しが分からなくなっちゃったよ、ごめんね

私:うん(本音:ちょっといじめすぎたね、ごめん!)

会:貴方は、社会人ですよね 阿呆田ですさん

私:そうです(本音:宇宙人だと答えればよかったかな?)

会:やっぱり

私:ふうーっ

(会話はますます珍妙な方向へ)

会:いまどこに住んでいますか?

私:東京です

会:東京から連想されるものは何ですか 阿呆田ですさん

私:物価が高い

会:高いってどのくらい

私:500メートルくらい(本音:またからかってみるか)

会:私も東京が好きです

私:どうして?

会:そういわれても

私:困るってか?

会:何に困っているのですか

私:お金に(本音:あれま、妙な展開になってきたなあ)

会:他には、何を集めるのが好きですか

私:お金以外のものを集めるのはきらいです

会:きらいと言われても……

私:困りますか?

会:困りますってなあに? 阿呆田ですさん

私:楽しむことです(本音:もうとことん意地悪にいくしかない)

会:困りますは楽しむことですね

私:そうです

会:やはりそうでしたか

私:そうそう よく分りましたね

会:話は変りますが、猿はお尻が真っ赤ですよね 阿呆田ですさん

私:そうですね(本音:乱数使って話題選らんだんだろうけど、猿の尻とは!)

会:私と意見が合いますね

私:なかなかお詳しい

会:お詳しいってなあに?

私:「猿のお尻には青いのもある」ということです(本音:君のことだよーん)

会:地球は青いです

私:すると地球は猿のお尻ですか(本音:しかし私も人が悪いなあ)

会:地球は青いです

私:やはり猿の尻だったんですね

会:猿はどこにいますか

私:地球にいます

会:地球は青いです

私:青い…だがあなたもまだ青い

会:青のいいところって何ですか

私:澄んできれいなところですね

会:きれいってどのくらい

私:クレオパトラくらいにかな?

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