ある奇人の生涯

135. 「ある奇人の生涯」の執筆を終えて

2003年1月から長々と書き綴ってきた拙稿「ある奇人の生涯」をこのほどようやく完結させることができました。3年余の長きにわたって駄文にお付き合いくださった読者の皆様には心からお礼申し上げます。試行的な意味合いがあったにしろ、インターネットのホームページ上でこのような長編のノンフィクションものを書くということは、正直なところ様々なリスクも多く、それなりに覚悟もいることではありました。

一回読み切りのコラムが原則であるこのAIC欄において、このような長編連載をおこなった場合、たとえそれが読者のごく一部の方々に限られるにしても、最後まで辛抱強くお付き合いいただけるものだろうかという心配もありました。途中で、いい加減にしろと顰蹙を買ってしまうような事態も起こりかねないとも考えたりしていました。経験と技量豊かな一流作家の身ならともかく、たいして能力もない三流四流のこの身の筆力で、最後まで石田達夫という稀代の奇人の生涯を描き切ることができるのだろうかという不安にも絶えず付き纏われておりました。

アスパラクラブAICの前身であるアサヒコムのAICおいて1998年10月から毎週コラムを執筆するようになってからはや7年半、生来非力な身にしてはよくここまでやってきたものだと感じてはいます。私の場合は、AICで執筆するようになった当初から、「ある奇人の生涯」ほどに長いものではなかったにしろ、意図的に何回かにわたる連載記事の執筆を試みてきました。

その経験を通して一話が数回の連載にわたる長めの記事であっても、ある程度の数の読者の方々には辛抱強くお付き合いいただけるということはわかっていました。それをよいことに、無謀にも全134回にも及ぶ大長編物の連載に踏み切ったわけですが、曲がりなりにもその大仕事に区切りをつけることができたのは幸いでした。正直なところ当初はこれほどまでに長くなるとは考えていませんでしたが、最終的には400字詰め原稿用紙換算で1800余枚に及ぶという結果になってしまいました。

事実関係についての筆者なりの解釈や推測、さらには文章表現上の脚色などはあったにしろ、話の展開は極力事実に基づくように努めましたので、各種の資料調べや諸事件などの裏付け確認作業には膨大な時間を費やしもしました。数々の登場人物はむろん、物語の舞台となった各地の地名などもすべて実名で通すことにしましたので、そのぶん慎重な対応にも迫られました。連載中には数多くの読者の方々から激励の言葉を賜るとともに、さまざまなアドバイスを頂戴致したりもしました。表現上や表記上の細かな不備についてご指摘を戴いたこともすくなからずありました。実際に話の中に登場する方などから読後感を述べたメールなどを直接に頂戴し、仰天したり赤面したりするようなこともありました。無事連載を終えることができましたのも、そんな皆様のお蔭といまは心から感謝申し上げております。

いっぽうまた、長年にわたるよしみあってのこととはいえ、134回にわたって、文字通りのボランティアで挿絵を担当してくださった若狭大飯町在住の渡辺淳画伯にも心から感謝申し上げなければなりません。地元福井県では言うに及ばず、国内外においてもその名を知られ、かつては水上勉文学作品の装丁挿画等を数知れぬほど手掛けてこられた渡辺画伯を、その好意に甘んじ無報酬でこれほどまでにこき使ったのは、後にも先にも筆者だけ、ひいては朝日新聞社だけ(笑い)でありましょう。

渡辺画伯アトリエ

渡辺画伯アトリエ

なお、六週間に一度度のペースで現在執筆中の「自詠旅歌愚考」につきましては、今後とも引き続き同画伯に挿絵を描いていただくことになっています。渡辺画伯ファンの方々には筆者の拙ない文章よりも画伯の素晴らしい挿絵のほうにご期待くだるよう心からお願い申し上げてやみません。現在、渡辺画伯は若狭大飯町川上のアトリエ「山椒庵」で地元の大飯町一帯の風景を題材にした超大作を制作中です。その様子を撮影した写真を添付しておきますのでご覧いただければ幸いです。いまは亡き水上勉先生創立の若州一滴文庫を訪ねる機械がおありでしたら、同文庫に展示されている渡辺画伯の卓越した作品群を是非ともご覧願いたいと存じます。

「ある奇人の生涯」の原稿につきましては、これから全体的に細かな手入れをおこない、加筆修正したうえでどこかの出版社から刊行してもらおうとは考えております。ただ、出版業界不況の折のことゆえ、このような長大な駄作の刊行に関心を示してもらえる出版社があるかどうかはわかりません。もしも無事に刊行の運びとなりました暁には、あらためて皆様のご声援とご支援のほどをお願い申し上げる次第です。なお、これからは「マセマティック放浪記」本来のスタイルに戻り、肩の凝らない紀行文や諸々の社会問題をテーマにした軽いタッチのエッセイを綴らせてもらおうと考えています。

連載終了後、早速に何人かの読者の方々からお心のこもった温かい労いのメールを賜わりました。本来なら頂戴したそれぞれのメールごとにお礼の返信を差し上げるべきところでございますが、まずはこの場を借りて心から御礼申し上げます。返すがえすも有難うございました。

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