続マセマティック放浪記

29. 小沢民主党号の遭難危機に思う

政治とはなんとも皮肉なものである。追い風に乗って麻生自民党号に大差をつけて疾走中だった小沢民主党号のヨットが、突然発生した西松建設献金疑惑台風に直撃され遭難の危機に瀕している。突然の高波によって有能な操舵手をさらわれたいまも小沢艇長は平静を装い、なおも自ら舵を取り続けてはいるようだが、他の乗組員らの心中はもはや穏やかとは言い難い。レースのゴール「次期政権島」に到達する前にレース監視船の東京地検号がルール違反のかどで艇長への事情聴取、さらにはその身柄拘束にと踏み切ったりすることになれば、民主党号はにわか仕立ての代理艇長の心もとない操舵のもとでゴールを目指さざるをえなくなる。そうなれば当然ながらその船足は大きく鈍るだろう。早めに新艇長を立てたほうがレースに勝てる確率が高くなるという見方もあるが、豪腕でなる現艇長だけにことはそう容易でない。

いっぽうの自民党号も同じ台風の余波を被りはじめてはいるものの、その現在位置が台風の中心からかなりずれていることが幸いし、風をうまく帆で捉えて船足はむしろ速まってきているようだ。船の揺れに足元を取られヨタヨタ気味だった麻生艇長は、人を小バカにしたようないつもの笑いを噛み殺し、「定額給付金」や「高速道路料金値下げ」という補助帆まで揚げて、この時とばかり民主党号を追走の構えである。細田、町村、古賀、河村といった艇長直属の船員らは内心の喜びを堪えきれないらしく、どことなく品の無い笑みを浮かべては、いまにもはしゃぎ出さんばかりの勢いだ。レース監視船東京地検号と特別な交信手段をもつらしい漆間艇長副補佐員などは、調子に乗ってうっかり東京地検号の内部情報などを漏らし、顰蹙をかってもいるようだ。

それにしてもこのヨットレース、今後どのように展開し、どのような結果を迎えることになるのだろう。どのヨットに賭けるかを模索しながら、なけなしの投票用紙一枚を手にしてレースの行方を見守る我々観衆は、突然の季節外れ台風の発生に混乱を極めるレースの様相にいささかしらけがちではある。だが、事情はどうであれ、「次期政権島」に最初にゴールするヨットがどれかを当てる賭けに我々は参加せざるをえない。公明党号、共産党号、社民党号、国民新党号、さらには無所属号など、レースに参加しているヨットは他にもあるけれど、それらはいずれも前述の二隻のヨットに比べて小型なために船足は鈍い。

甚だ残念なことに、このヨットレース参加艇の艇長や乗組員は清廉潔白な聖人君子には務まらない。見栄えもよく性能も優れたヨットを建設するにはずいぶんと費用もかかるようなので、なんとかしてそのお金を集めなくてはならないらしい。艇長やその直属の船員が大富豪だったりすればまだよいが、現実にはそんなことはほとんど望むべくもないゆえに、ヨットレースの観衆中の大所(おおどころ)に寄付を求めざるをえない。
しかし、観衆中の大所のほうもしたたかだから、無償の善意で寄付に応じてくれることなどはほとんどなく、暗黙のうちにその対価を要求してもくる。だから、各艇長以下のレース参加者は清廉潔白を装いながら、巧みにその暗黙の要求に対応をする能力をもっていなければならない。それゆえに、真の意味で清廉潔白の理念を貫き通そうとするような者は、初めからレースに参加する資格などないに等しいし、そもそも参加する気持ちすら起こらない。

何かの間違いで清廉潔白の士が艇長になり、奇跡が起ってレースにも勝ち、政権島にしばしの居座を構える羽目にでもなったりしたら、それはそれで大変だ。当人の意思にかかわりなく、自分のヨットを応援してくれた観衆だけでなく、他のヨットを応援した観衆らをも楽しませるためのお祭りを催さなければならないからだ。
ところが、このお祭りがなんとも厄介で、どんなに盛大なものになるように知恵を絞ってみたところで、必ずや不平不満を言う観衆が出てくる。そして、時の経過とともにその数はどんどん増えていく。そうなってしまったら、清廉潔白が信条の聖人君子の艇長はその座と共に政権島の居座をも潔く放棄するか、さもなければ、居直って清濁併せ呑む無分別・無摂生の士か、どす黒い汚水をも平然と呑み込む妖怪の類へと変身を遂げ、強権を揮わざるをえない。

我々個々の観衆も時に身勝手で不条理なところのある己の分を弁え、また、政権島ヨットレースなるものの本質を十分に考慮して、そのレースに登場する諸々の艇長や乗組員らには絵空事にも近いような過度の聖人君子ぶりは求めるべきでないだろう。もちろん、だからと言って、もっとも多くの観衆の心をなごましてくれるようなお祭りが開催されるにはどのヨットの艇長や乗組員に政権島の座を委ねるべきかを熟慮し、レースの投票用紙を駆使することを忘れてはならない。民主党号の現艇長には問題多いとは思うけれども、長年自民党号だけが勝利を収めて続けてきているレースにはうんざりしている観衆の一人として、筆者などは、次期政権島レースでは台風の猛威をもろに受けながらもゴールを目指す民主党号を応援することにしたいと思う。

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