続マセマティック放浪記

《怪文書――当今動物界珍談メモ》

瘋癲老人筆

(虎国ボスと狐国ボスとの親交のほどや如何に)
 虎国の大ボスと狐国の小ボスとが、ある日のこと、虎国にある大きな森の奥に広がる草叢(くさむら)のなかで顔を合わせ、しばし親しげに歓談に興じていた。なぜか彼らはその草叢で小ぶりの丸い瓜の玉を交互に蹴り転がして遊びながら、何やら意味ありげなその密話を繰り広げてもいた。
(虎)ボス狐さんよぉ、お前さんも随分とズル賢いことよなあ。まあ、そのズル賢さは裏にいてお前さんを操りおだてあげる誰やらから仕込まれたものなんだろうがね。それにしても、こうして俺様と付き合いながら、何時の間にやらこの身の発するオーラをちゃっかりその身に取り込んで、お前さんに逆らったり不満を持ったりする輩(やから)を黙らせてしまってるんだもんなあ。
(狐)まあまあ新ボスの大虎様、そこのところはお手やわらかにお願いしますよ。こんな私めでも偉大な虎国のためにはそれなりにお役には立ってるんですから――ここは「虎のオーラを活かす狐」ということで如何でございましょうか。
(虎)まあそれも確かに一理ありはするわいなあ。ただなあ、あんたの国の木橇(きぞり)だけがどんどん虎国に入ってきてさ、なぜかこっちの木橇はあんたの国にはほとんど入っていないだろう。これって、どうしてくれるつもりなんだい? 不平等もいいところだぜ!
(狐)まあまあそうおっしゃらずに……。そのかわり、大虎様のお国の海を走ったり空を飛んだりするお高い道具、いつもいっぱい私の国に持ち込むようにしているじゃありませんか。それに、我が狐国の南のほうにある島には大虎様の国の大道具を沢山置いて、ご家来衆が自由にお使いいただけるように配慮も申し上げているわけでもございますから……。
(虎)狼国や狸国に勝手な振る舞いをさせないためには、お前さんの国にそのくらいのことはしてもらわんとねえ。あんたの国を奴らの横暴から守ってもやってることだからねえ。
(狐)はいはい、おっしゃる通りで、大虎様……。近頃はその狸国が空飛ぶ妖具を作ったとかで、大威張りしておりますよね。ここは狼国にも睨みの利く大虎様のお力で、いい気になっている狸国を懲らしめてもらいませんとね。私も口先だけでならなんとでも言えるのですが、やっぱり、大虎様のようなオーラがありませんと何ともなりませんので。
(虎)お前さんもまあ、偉そうなことだけはよく言うけど、元々は中身は空っぽのズル狐だからなあ。ただ、俺様には、そんな恰好つけたがり屋のお前さんのほうが都合いいんだけどさ。それとさあ、お前さんの隣国の蝙蝠国、あれ何とかならんかなあ。俺たちも昔から何かと力は貸してやってるんだけど、近頃は狼国や狸国の顔色ばっかり窺いやがって!
(狐)もう遠い昔のことなんですが、我が国の荒くれ狐どもが蝙蝠国の若い雌蝙蝠たちを弄んだとか…。一旦は落ち着いたその話が最近またもめ始めまして……。でも、私なんざぁ、そんな話など鼻先でせせら笑って一切気になんか致しませんし、妥協するつもりも毛頭ありません。また、大虎様のご配慮もあって狼国は狸国に厳しく振舞い始めたようですが、最近は白熊国が狸国に色目を使い始めたみたいで、なんとも厄介なかぎりなんですわ。
(虎)ただ、その白熊国なんだけどな、俺様が虎国の新ボスに選ばれる際に、裏でちょっとした小細工をしてもらったりもしたんで、あんまり強いことも言いかねてねえ。最近は俺様と仲の悪い小虎どもがそのことでいろいろ大騒ぎをし始めてもいるところなんでなあ。
(狐)私も、子狐や若狐育成用の施設建設問題で親しい狐らに特別な計らいをしたんじゃないかと騒がれておりまして。家来の狐らが狐語で言う「コンタク」をしてくれるのは有り難いですし、内心はまんざらでもないんですが、自分からは表向きにそんな指示など致してはおりませんので。

(七種動物会議で再会した二頭)
 狼国と白熊国のボスを除く、著名動物国のボス七頭による会議に出向いた虎国ボスと狐国ボスとは、そこで再び出合って密会の場を設けた。
(虎)俺様もお前さんも気の利いたウィットやユーモアの精神など全く持ち合わせないって周囲からは言われてるねえ。自分の主張だけ吼えまくって、相手の言うことなど一切聴かない心の狭い奴らだともね。でもさあ、クソどもの意見など無視して何が悪い、俺様の思いを押し通して何が問題なんだよ!
(狐)大虎様のおっしゃる通りで! 大虎様もこの私めも自分らの国の民衆の大きな支持があってボスの地位に就いたわけなのですから、クズどもに何と言われようと、思うがままに権力を揮って、ボス絶対視の国造りをしていけばいいだけのことなんですよ。
(虎)そうだ、その通りだ! お前さん俺様の気持ちなかなかよく分かってるよなあ……、だから一緒に草叢で瓜玉の転がしっこやって遊んでもよく気が合うんだよな!
(狐)はいはい、この動物界で大虎様のことを一番理解しているのはこの狐めですから!
(虎)それで、お前さんとこの子狐や若狐育成用の施設建設問題、いろいろ騒がれているようだけど、お国に戻ったらどうするつもりなんだい?
(狐)それに関わる家来の狐どもの首根っこは密かに裏で手を回してしっかり押さえてありますし、私を補佐する腹心の大狐も老獪そのものですから、私が直に命令を下さなくても、皆それとなくこちらの顔色を窺って行動してます。コンタクという例の狐語が意味する通りにですね。国中にたくさん住むアホ狐どもを操るなんて今の私にとっては簡単なもんですよ。幾つかある狐らの伝言組織などにも、その親分らに美味い鳥肉をまるごと与える裏約束をしてありますので、今はもう皆こちらの言いなりですからねえ……ふふふふ。
(虎)俺様のところじゃ、その伝言組織の虎どもがうるさくて手を焼いとるんじゃがなぁ。
(狐)大虎様ともあろうお方がそんなことでメゲたらいけませんよ。狐国にも私のことをつべこべ言う連中はいるんですが、鼻先で軽くあしらいながら奴らの食い扶持を巧く抑え込んだり、さりげなく脅してるんで、結局はこちらの言いなりになるだけなんでして。 
(虎)狐の分際でなかなかやるものじゃのう。ところで、狂暴罪とかいう特別な暴れ狐とやらを取締まるための約束事は、あんたの目論み通りに進みそうなのかね?
(狐)もちろんですよ。私に忠実な家来の狐らの数が圧倒的に多いですから、狐集会で狂暴罪が成立することは間違いありませんね。シメシメですよ、これで私に逆らう小賢しい狐どもの動きを封じられますからね。狂暴罪の本当の狙いは暴れ狐の取締りなんかじゃなく、小うるさい狐どもを監視し、狐国を私の意のままに操り支配することなんですから。
(虎)ズル賢さもここに極まれりという感じじゃなあ。あんたの中身の空っぽぶりからすれば、そのズル賢さぶりは悪知恵に長けた家来狐が周りに何匹かいてのことなんじゃろうがなぁ。それで、いまひとつのお前さんの悲願「狐国倦法怪成」はなんとかなりそうなのかい?……あんたの爺さん狐の悲願だったとかいう話じゃが……。
(狐)倦法怪成実現で先々まで自分の名を残したいので、それはもう抜かりなく!
(虎)昔、俺様の国などが押し付けた倦法だと言っとるようじゃが、本当にそうだと思っとるのかい?……あの時のあんたの国の状況じゃ、俺様の国の昔の虎将軍らがある程度手ほどきしてやるしかなかったわけで、単なる押し付けじゃ
なかったとは聞いとるがなぁ。
(狐)そうしておいたほうが、倦法怪成に反対する小うるさい狐どもを黙らせ、倦法怪成を進め、それによって虎国の動物世界戦略をもお助けしやすくもなりますからね。
(虎)そう言えばお前さん、俺様が虎国新ボスになるかなり以前に虎国代表集会でわざわざたどたどしい虎語をつかって偉そうなお説教したことがあったよなぁ。あの時さぁ、「あなたがた虎国は、私たちの狐国に倦法を押し付けたのだが、そのことを今はどう思っているのか?」くらいのことは問いかけてもよかったんじゃないかなぁ。まあ、恰好つけのお前さんには、そんな度胸などなかったんかもしれないがねえ。
(狐)まあまあそうおっしゃらず……そもそもあのお説教原稿は私めが自分で書いたものではなく、お説教話作りが巧い私のお付き狐に代筆してもらったものなんですから。
(虎)まあ、お前さんの中身からすればそんなところなんじゃろなぁ。

(両国ボスらのテレパシー会話)
自国に戻った虎国と狐国の両ボスは、それぞれの国内で自分たちへと向けられ始めた不信の声に対応しなければならなくなった。彼らが想定していた以上にその声が大きくなってきていたからである。直接に会ってお互いの本音をさらけだし、鬱憤晴らしをすることのできなくなった彼らは、夢の中にあって本音をぶちまけるテレパシー会話をするしかなくなった。もちろん、お互いの気持ちをコンタクしつつというわけだった。
(狐)大虎様あー、元気でやっとられますかー?
(虎)やあ、狐さんかいな……こっちは大変だぞよぉ。俺様が辞めさせた前の虎社会取締組織の組長野郎がなぁ、虎部族代表集会に呼ばれて公然と俺のことを批判しゃがってさあ。
(狐)新ボスのポスト争いの時に大虎様が白熊国と裏取引をなさって、例の雌虎がボスの座に着くのを押しとどめなさったとかいう一件のことでございますね。
(虎)そうなんじゃよ。そいつがなぁ、俺様が白熊国の秘密組織の力を借りて自分の立場が有利になるよう小細工したとか吼え立てまくりやがってさあ。
(狐)そんなもん気になんかなさらなくても……ボスになるためには何でもありの世界なんですから。
(虎)ただなあ、そのおかげで、伝言組織の小虎どもからも、俺様のそれとは違う部族の虎どもからも総スカンを喰い始めてなあ。俺様の部族のなかにもそんな虎野郎が何頭かいたりしおってさあ。俺様を「断崖する」……そう、小賢しい虎どもが集まって俺様を断崖から突き落とし、ボスの座に戻れぬようにしてしまおうとする動きさえもあってなあ。
(狐)そういいますと、私のお隣の例の蝙蝠国でも最近そんなことがございましたねえ。でも大虎様の場合にはまだまだ同族の虎様たちも沢山いらっしゃいますことですから。
(虎)まあ俺様も「ツブヤキごっこ」の仲間を通じて、小うるさい伝言組織やアホ虎ども相手に「嘘つき野郎!……無能野郎!」って怒鳴りまくってはいるんじゃがね。ただ、このところ段々風向きが変わってきてなあ……。ところでお前さんのほうはどうなんだい?
(狐)実は、私めの支配する狐国でも事態が面倒な展開を見せ始めておりまして……。
(虎)あんたのお得意な「隠証葬詐(いんしょうそうさ)」とかいう狐語の連発が逆効果となって、例の「コンタク」をしたとかいうお前さんの家来どもの小細工が表沙汰になり始めたとか?
(狐)「証拠を隠して詐術を葬る」っていう意味のこの言葉、実に都合の良いシロモノで、私もある古狐からその言葉の便利さを教わったんですがね。ただ、近頃、前の若狐育成部門長だったウルサ狐野郎が、私へのコンタクがあったなどと偉そうに言い出しまして……。それに、十分な鶏肉を与えてやらなかった側の伝言組織の狐どもが同調致しましてね。しかも、そのウルサ狐野郎の元の家来どもの一部が、自分らもそのコンタクの一端を知っているなどと漏らし始めましてね。
(虎)そもそも、隠証葬詐やソンタクとかいうテクニックを弄ばなきゃ、とてもじゃないけど俺様たちに国なんか治められんじゃろうが……。お前さんのやってることなんて、俺様の権謀術数に比べたら可愛いもんじゃよ! 
(狐)大虎様にそうおっしゃっていただきますと心強いかぎりではございます。そもそも、若狐育成用の施設建設問題におきまして、ごく親しい仲間の狐連中にまたとない便宜供与をしたとか騒がれておりまして、当面はなんとかしてそちらの騒ぎのほうから逃げ切らないといけないと思っております。私に忠実なボス部屋付の大悪狐や小悪狐らの力も借りましてね。
(虎)仲間に便宜供与して何が悪いもんか!……俺様だってお前さんだってそんな仲間あってこそボスの座にすわり、アホ虎どもやアホ狐どもを有無を言わさず操ることができるんじゃからなあ。
(狐)おかげで、このところの狐集会では、狂暴罪や私めの長年の念願であります倦法怪成関連の話し合いがすっかり遅れ気味になってしまっておりまして……。小賢しい狐どもからは、威張ってばかりいると批判もされていますが、大虎様の発する桁違いのオーラを大いに活用させていただければ、奴らめも黙るしかないと存じます。大虎様と私とは絶対的に考え方の波長が合っておりますから、今後とも宜しくご指導ご教示くださいませ。「大虎様を断崖する」なんて大法螺吹いている小虎どもを片っ端から断崖に追い詰め逆に蹴落としてやってくださいますように!
(虎)なかなか話の分かるやつよのぉ……俺様が虎国の新ボスの座に着いたとき、すぐさま遠くから駆け寄ってきてこの身の毛繕いをしてくれたんは、動物界広しと言えどもお前さんだけだったもんなあ。まあ、お前さんも、最近、直臣狐どもを総動員してまずは狂暴罪法案とやらを強引に処理してアホ狐どもの口封じるようにしたようじゃからなぁ。そして、若狐育成用施設建設問題で「コンタク」とやらの問題で揚げ足を取られないために狐集会をも終わりにしてしまったようじゃなあ。次の狙いはいよいよ倦法怪成問題かいな?
(狐)おかげさまで狂暴罪問題のほうは、先日の狐集会で手際よく片付けることができました。アホ狐どもざまーみろってところですね。倦法怪成のほうはまだ時間がかかりそうなんですが、まあ、こちらのほうもあの手この手を用いて何とか致しますよ。それが大虎様のお国にも貢献することになるわけですから……。あと、できるなら白熊国と仲直りの約束を取り付けたいと考えておりまして……大虎様も以前から直参のご家来衆が白熊国とは裏で仲良くなさってるようですから。是非ともお知恵とお力をお貸しください。
(虎)お前さん、白熊国との仲直りの約束事をうまく取り付けたりすることによって、「腦減閉話賞(のうへるへいわしょう)」かなんかを狙ってるっていう噂もあるようだけど?
(狐)そりゃまあ、腦減閉話賞は欲しゅうございますよ……昔狐国のボスを務めた大叔父狐もその有難い賞を貰って名を残したわけでございますからね。
(虎)俺様もお前さんも同じなんだが、「中身がない」などと陰口叩く利口ぶった輩を見下してやるためにゃ、腦減閉話賞なんかをとるに越したことはないかもしれんなあ。そう言いながらも、この俺様はお前さんのことを「中身がない」と何時も面と向かって皮肉ったりもしているがなぁ。まあ、そのかわりいろいろ面倒は見てやるつもりでいるから、その点は悪う思わないでくれよなあ。中身が空っぽだからこそ、取り巻き連中の悪知恵などをいくらでも体内に取り込むことができるんじゃから……。中身がないに越したことはないさ。
(狐)あと三年後に私どもの狐国で世界動物運動大会が開かれますので、それまでは何としてもボスの座にすわり続けなければならないと思っておりまして……。狂暴罪関係の取り決めも、表向きはその動物運動大会開催時の安全確保に不可欠だということにしてありますので。
(虎)あんたの国の昔の言い回しを借りれば、「お前も悪じゃのう!」ということになるわなぁ……ただまあ、中身が空っぽな割にはだけどなぁ……わっはっはっはっは!
(狐)滅多にお笑いにならぬ大虎様がなんとまあ!……お互い自分の国のことを誰よりも思っているふりをして、大虎様はあと八年、私めはあと四年頑張ることにしましょうや!
(虎)お前さんはほんに見栄っ張りよのう……名誉欲もそこまでくれば見上げたもんじゃとしか言うほかないんじゃが……。
(狐)倦法怪成を実現し、白熊国との仲直りの約束事を取りまとめ、さらには世界動物運動大会を成功させ、脳減閉話賞をもらえれば、それはもう最高なんですがねえ。
(虎)そらあ、お前さん、欲張り過ぎじゃがな!

(狐集会の延長を必死に回避したものの)
 狐集会で狂暴罪の取り決めを強引に処理させたあと、ボス狐一派は、若狐育成用施設建設問題などで反対派のウルサ狐どもから批判されるのを避けるため、その集会を早々と閉じた。だが、若狐育成組織部門の内部から問題の施設建設に関する裏話や噂話が伝言組織界隈に流れ出したとかで、彼ら一派の思惑通りには事が進みそうになくなってきた。それらの裏話や噂話が多くの狐衆の間に広まったことにより、ボス狐らに対するそれまでの信頼度が俄かに揺らぎ始めたからだった。各種伝言組織の調べによると、ボス狐一派の手口に賛同するお狐衆らの数が急速に減少し、元々のお太鼓持ち狐衆くらいからしか賛同の意を得られなくなってきだしたのだった。
(直参小狐)ボス狐様、何だか大変なことになってきております。このところ、ちょっと我が国全体の狐衆らの様子がおかしいんでございます。
(ボス狐)この前も俺様の言うことをおとなしく聞いてくれるようにと国中の狐衆に向かってお説教を垂れたばかりなのに、いったいどうしたというんだい?
(直参小狐)いろいろな伝言組織の連中の調べによりますと、ボス狐様のお導きに賛同する狐衆の数が急速に減ってまいりましたとか!
(ボス狐)この俺様に賛同する狐衆の数は、小賢しい不賛同狐どもの数に比べるとずっと多かったはずなんだが、なんでそれが急減したというんだい?
(直参小狐)ボス狐様が威張り過ぎていらっしゃるとか、隠し事をなさっていらっしゃるとか、さらにはまた、奥方狐様のお振舞いがいささか気品と叡智に欠けていらっしゃるとか評するアホな伝言組織が幾つもあったり致しまして……。黄泉瓜や惨軽などのように美味い鶏肉をしっかり配ってやっている子飼いの伝言組織は、ボス狐様のお心をしっかりとコンタクしてくれているんですが、それ以外の伝言組織の狐どもが近頃どうもこちらの思うようにはなってくれませんで……。奴らへの鶏肉の配分の仕方や、裏での締め付けかたがいまひとつ十分ではなかった所為なのかもしれません。 
(直参中狐)それもなんでございますが、若狐育成組織部門に今も所属する一部の狐どもから、例の若狐育成施設「賭楽宴」の建設でボス狐様や私めなどから便宜を図るように指示を受けたとかいう話が漏れ広がり始めておりまして……。正直なところ、我々の内輪話が漏れ漏れの状況になってきておりますので、なんらかの手を講じておかなければならないのではないかと考えております。ボス狐様の御坐をあと四年間はお守りするためにも!   
(ボス狐)俺様は何にも知らん、いや、何にも知らんことになっているんだから、お前ら直参衆がしっかりやってくれんとなぁ。万一の時には、お前らのうち誰かが俺様に代わって腹を切るようにな!……お前ら、その覚悟だけはできとるんだろうな?
(直参大狐)若狐育成組織部門に属する現役狐どもは、この大狐めが徹底的に締め付け、こちらの意のままに操ることに致します。この大狐ならではの天賦の詐術の限りを尽くしまして、まずは伝言組織の狐どもを煙に巻き、ボス狐様をウルサ狐やアホ狐どもからお守り申し上げます。直参小狐と直参中狐、そしてこの直参大狐めが力を合わせて奴らに立ち向かえば、この危機はなんとか切り抜けることができましょう。そんなわけですから、ボス狐様もここはじっと我慢して慎重に振舞い、能無し狐どものバカ騒ぎの声がおさまるまでお待ちください。奴らもあの手この手でボス狐様や私ども直参狐を特別な場に呼び出し、裏事情をいろいろ聞き出そうとするでしょうが、間違ってもその手には乗ってはなりません。昔から「沈黙は金なり」とかいう申し伝えもあることでございますし……。
(直参小狐)そうです、そうです、大狐様のおっしゃる通り、そうするのが一番です。
(直参中狐)ボス狐様と「賭楽宴(かけがくえん)」狐様との長年の馴れ合いなど、私めは最近まで知らなかったということで通しておりますし、私めが若狐育成組織部門にボス狐様の意向だとかて指示を出したとも言われていることにつきましても、断固否定し続けますからその点はご安心ください。まあ、ボス狐様のお心の内を私めがコンタクし、一芝居打ったことには間違いございませんが、たとえそうだったと致しましても……ふふふふふ。 
(ボス狐)大狐さんが若狐育成組織部門から漏れ出た情報を「苛畏文書」とか言って、内心、苛立ち畏れながら取り合おうとしなかったのは少々逆効果だったようだなぁ。結局、狐衆にとって「開かれた文書」を意味する「開文書」になってしまったばかりか、次々に面倒な文書が出てきおったわけなんだからなあ。
(直参大狐)あれはちょっとした私め失敗でございましたね……少し頭に血がのぼりすぎましたもので。だから、あとで、文字通りの「開文書」としてその情報の存在だけは認めておきました。もちろん、その意味するところが正しいとものだとは決して認めておりませんし、その内容が紛れもなく正しいものだと知っているのは、元々、ここにいる私どもだけなんでございますからね。
(ボス狐)ともかく、ここは是非とも慎重にやってもらいたい。俺様はまだこれから倦法怪成を成し遂げ、白熊国との仲直りの約束事を纏め、世界動物運動大会を成功させ、そして腦減閉話賞受賞を現実のものとさせなければならない身なんだからなあ。
(直参狐一同)はいはい、さようでございますよね。よくよく承知致しました。
(ボス狐)俺様はこの前も、国中の狐どもに向かって、「狐国の統治に関して何かご不明な点があれば、それらをしっかりと分かり易く説明する」と発言したばかりだから、しばらくはウルサ狐どもの不信の声を巧くかわし続けるようにしないといかんなあ。
(直参中狐)ふふふふふ……本当はそんなことをなさるご意思などまったくおありでなく、「お前らが何と言おうと俺様の意向は絶対なんだ。アホどもに俺様の思いをいくら説明してもそうするだけ無駄なんだ」とお思いでいらっしゃいますのにねえ。
(ボス狐)お前さん、ほんにまあ、俺様の心の内を抜かりなくコンタクしてくれていることよのう!
(直参狐一同)わっはっはっはっは!
(ボス狐)それにしても、前の若狐育成組織部門長だったアホ狐めが己の分際もわきまえず、伝言組織の裏話収集役狐めら相手に俺様のプライドを貶めるような発言を相変わらず続けおって……ほんとうに癪に障る奴じゃ!
(直参大狐)まったくもってあの野郎は狐の一族だとは思われないような輩でございまして……狐というものがどのような存在であるべきかを全く分かっておりません。偉そうに「免重福盃」とかいう四文字熟語を連発しおってもう!
(直参小狐)ところで、狐国の中心地に当たる一帯で行われている地方狐集会代表選別運動にはどう対応したものでございましょうか。大池に住むとかいう女狐めがボス狐様の意向に逆らうべく、我こそはとしゃしゃり出て、結構な人気を集めているようでございますが……。あの女狐め、もとは我々一派の直参などもやっていたくせに!
(直参大狐)いまの段階で我々直参狐衆がその選別運動応援に直接出向いたり、ボス狐様が下手に応援メッセージをお出しになられたりすると、ウルサ狐派の伝言組織に絡まれて面倒なことにもなりかねませんから、ここはぐっと堪えてしばし辛抱することに……。
(ボス狐)まあ、国全体の狐集会と地方別の狐集会とは格が違うんだから、結果がどうなろうとここであたふたすることはないわ。しばらくは様子見じゃよ……ただ、お前ら直参狐衆はその地方狐集会代表選別結果を含めた先々の状況に備えて、抜かりなく謀略の限りを尽くし、万全の態勢を整え俺様がボスの坐を守り続けられるようにしてくれんとなあ。
(直参狐一同)ははーっ、かしこまりました!  (完)

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