初期マセマティック放浪記より

165.年頭の詩

<葬送と新生>

僕もあなたも戯れに 聖なるものの満ち満ちた
この世に生を得たのです

戯れに生まれた者は愚かです 愚かのゆえに迷います
この世の秩序を乱すのは 聖なる構図の狭間から
生まれたものの宿命(さだめ)です

はかない春の悦びと 哀しい冬の痛みをば
聖なるものに責められて 己の生を呪うとき
消えなんとする灯火を 無常の風から守るのは
氷のような涙です 悪魔のような言葉です

氷の涙は力です 悪魔の言葉は自立です
涙と言葉は絡み合い ほのかな意志が芽生えます
暗愚と無知で編み上げた 自縛の網に捕らわれて
傷つき足掻く者たちに 唯ひとつだけ許された
それは小さな武器なのです

闇にうごめく葬送の 調べに慓く胸深く
悪魔の言葉を糸となし 氷の涙を珠として
秘かに育て隠し持つ 意志という名の念珠こそ
去りし者への鎮魂歌 旅立つ者への讚称歌

<夜霧の国にて>

話せというから話しました 叫べというから叫びました
だってそれが あなたがたの願いだったんじゃありません?
そうして欲しかったんでしょう……心の奥では?
そうですか そうなんですか この夜霧の国はいつも……
何処へ行ったんです! ほんとうにもう誰もいないんですか?

戸口を閉めて息をひそめているんですね
誰も入れてなんかくれないんですね
いいんですよ 淋しくなんかありませんから
怖がってなんかいませんから
ただちょっと悲しいだけです がっかりしているだけです
美しい声の人たちだって いつも思っていましたから
この夜霧がすべてを風化させてしまうんですね
さらさらとした無機質の砂へと

指先からさらさらと崩れ落ちていきます 痛みはありません
綺麗なもんです砂というのは なにせ心がありませんから
あなたがたはまだ生きているのですね 霧を避けて戸の内側で
叫んだために砂になります 夜霧を吸って風化します
意識が無くなってきました そろそろですね
ごきげんよう では……
2002年1月9日

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