幻夢庵随想録

《幻夢庵随想録》(第8回)(2019,03,20)

《 山 想 》

        冬の山旅のはての 凍る夕映えの奥に
        骸骨の影をした魔笛の主を見るのは
        なにもいまに始まったことではない
        どうせ私は 抗しがたいその笛の音に誘われて
        茜色の罠に自らはまっていくだろう

        しかし御身よ! 我を待つ影よ!
        この魂を奪うなら
        せめてそれを染め変えて奪え 撼わせて奪え!
        天地の変化(へんげ)の妙を尽くして
        無窮の闇へとこの身を奪え!

        純白の雪が 青い氷が
        私の温もりを欲するというなら
        西空を荘厳に彩る絵の具に
        私の血潮がいるというなら
        そのすべてを献げようではないか

        しかし御身よ 笛を吹く影よ!
        たとえ虫けらに劣るこの魂であるにしても
        そのひとつだけは感涙に包んで奪え
        それが御身の偽りの姿だとしても
        もてる衣裳を華麗に纏い
        明星のきらめく夕冴えの彼方へと私を奪え
        御身の魔性がこの魂を揺るがすに足りるなら
        あした白い骸と化し呪いの歌を口ずさむのを
        なんで私が嘆こうか

        鋭く凍る冬の稜線を越え 自ら命を削りながら
        峻峰の黄昏を私が待つのは
        そう御身に訴え語りかけるためだ

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